Mr.エレクトの独り言 2010年09月22日
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Mr.エレクトの独り言

自主レーベル及び、日本人中古貴重盤ショップ、『エレクトレコード』オーナー、Mr.エレクトによる独舌日記!!

「酷使の美学」②

まず初めに、「酷使の美学」とは「目的に対して自己の能力を最大限に発揮する事こそが人間として最も美しい姿であるとする思想」・・・の事を指す。

ところで、’80年前後にパンクを好きになってからと言うもの、精神構造が単純な私は、歌謡曲・・・ましてやアイドルと言うものが嫌いになり、それは’70年代の歌謡曲を再評価する様になる’80年代後半頃まで続くのであるが・・・。

それゆえに、彼女らをアイドルなどと呼ぶのは滅相もないが、私にとって現在もアイドルと呼べる日本の女性シンガーを挙げるならば、それはやはり山口百恵と森田童子と梶芽衣子とチトセ(いずれも雲の上の人ゆえすべて敬称略にてご容赦を・・・)が、今以って断トツで上位を独占し続けている事は紛れもない事実なである。

山口百恵はあの若さで、しかも超多忙なタレント活動やハイ・ペースな歌謡曲のシングル発売ローテーションの中、大人の女性の恋愛観によって綴られた歌詞を、まるでその登場人物に自分の魂を移し換えたかの様に見事なまでにリアリスティックに歌い上げ、人気絶頂の最中、僅か21歳にしてマイクを置いた。

森田童子は、胸のうちに刻まれた心象風景を出来るだけ正確にうたに変換しようとするその実直さと生真面目さゆえに、風が吹けば消え去ってしまいそうなか細い声でありながらも、自らのこころに生じる微弱な振動さえをも一寸の濁りも歪みも許さぬ強固な美意識を以ってリスナーに伝えんと誠実かつ精密に喉を震わせ、自分の役目を終えた後は、そのトレード・マークであるサングラスを外し、引退・・・。

そして、梶芽衣子こそ本業が役者であるがゆえに現在も現役で歌手業も再開してはいるが、作品の登場人物に完全に成り切るそのプロフェッショナル振りで、特に“女囚さそり”の頃のイメージ濃厚な歌唱作品は、40年近くの時を経た現代においてなお、海外の好きモノや国内の幅広い年齢層から支持され続けている。

そう考えると、チトセも最後のバンドであるTHE WRECHED解散後、一切の音楽活動から身を引いてしまった訳で、それを“潔い”と褒め称えるか、“損失”であると考えるかは人それぞれなのであろうが・・・。

さて、それでは歌手としてのチトセの魅力はと言えば、あのまるで常に太マジックで書かれた文字の様な・・・すなわち徹頭徹尾異常に喉を酷使し続ける全力疾走の歌唱スタイルにある事を疑う余地は無い。

かくして、ただひたすら自分の肉体を痛めつけ虐め続けるかの如き所業の果て、まるで自らの命を削り差し出す事と引き換えに魂を吹き込まれたとでも言うべき歌唱作品の数々に対し、「酷使の美学」の価値を知る者であれば、必ずや感銘するものと私は信じる。

・・・ただし、再結成カムズは初期のカムズに比べ世間の評判も著しく悪く、とは言えあの最強メンツの初期カムズに比べる事自体がナンセンスでもあるのだが、現実的に楽曲のクオリティが下がった事も否めない事実。

何故なら、そもそもバンド内における作曲者と演奏者の役割分担を考える際において、「良い楽曲とはどの様なものを指すのか?」との問いに答えるならば、それは作曲者がバンドのメンバーの能力を最大限もしくはそれ以上に引き出すために演奏者が全力を出し切る事以外には成り立たない様な楽曲を提示する事と共に、演奏者は演奏者でその楽曲を自己の全能力を振り絞ってでも完成させようとする、そう言った相互の共闘関係の果てにのみ、作曲者及び演奏者個々の魅力の向上が、そしてバンド全体の魅力をも倍増すると言うマジック・・・否、現実的な成果がもたらされ得るのであるからして・・・。

(しかるに、理想と現実・・・すなわち楽曲の難易度と演奏能力との間にあまりにも大きな隔たりがあると、時にはメンバーが死ぬ事もあるので注意が必要ではあるが・・・。)

例えば、それが誰とは言わないが、とあるバンドに居た頃はメンバーが作曲した楽曲によって強烈な魅力を発揮していたヴォーカリストが、そのバンドを脱退して別のバンドに移ったりソロ活動を始めて自分で作曲して唄う様になった途端、まるで気の抜けたサイダーの様な音楽しか出来なくなるなんて事は良くある話なのだ。

そこで、再結成カムズに話を戻すと、楽曲自体はハード・ロック調とは言え、実はトリッキーな要素も多分に含んだ非常にユニークなものだったのではあるが、リズムやリフの密度が濃くないがゆえにチトセと言う高性能な楽器の能力を最大限に引き出すまでには至っておらず、直線的なリズムを得意とするマツムラ氏にもあまりフィットしていなかった様に感じる。

ちなみにマツムラ氏は、やはり初期カムズや、まだハードコア・パンク調だった頃のガスタンク、そして再びチトセと組んだ最後のバンドであるTHE WRECHEDにおける演奏の方が、その生真面目かつストレートなドラミングの魅力を最大限に発揮しているものと思う。

・・・とは言え、それまで国内トップ・クラスだったバンドにいきなり加入して曲作りを始めたギターのマサキ氏やベースのテツ(TETSU.O~以下O)氏にそこまで求めるのは酷と言うもの・・・。

しかし、ドラムのマツムラ氏が元グールのテツ(TETSU.M~以下M)氏にチェンジした事をきっかけに、カムズはVIRGIN ROCKSと改名する訳であるが、その後はメンバーそれぞれが各々の持ち味を最大限に生かしたバンドに成長していくのである。

まずは、どちらかと言えば繊細なギターを弾くマサキ氏と、硬質なベースを弾く気の強そうなテツ(O)氏との異なるカラーが、同バンドに冠された「華麗で過激」とのキャッチ・フレーズを見事に体現するかの如く、キャッチーでありながらもハードに畳み掛ける様なサウンドの楽曲がどんどん増え、それがチトセの全身全霊の咆哮と歌唱力を更に引き出させる事にも繋がり、バンド自体を日に日に魅力的なものに変貌させていくのであった。

また、そう言った激しく密度の濃い楽曲であるがゆえに、職人肌のマツムラ氏よりも新加入したテツ(M)氏の様な不良っぽいタイプ・・・言わば気性が荒く派手好みな手数の多いドラムは同バンドに非常にマッチしており、ゆえに私は、やはりVIRGIN ROCKSになってからの方が、名実共に初期カムズの威光に頼る必要のない、チトセをヴォーカリストに据えた同バンド独自の魅力を初めて確立したものと考える次第なのである。

それでは次回は、今回発売となるDVDに収録されている、当時私も目撃したライヴ当日の想い出などを書き連ねてみたいと思う・・・。

(つづく)

VIRGIN ROCKS LIVE DVD「SHUT UP !! Live at 新宿LOFT 1987」
VIRGIN ROCKS DVD


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