あんな悪夢を見て、ずいぶん汗をかいたせいだろうか、目を醒ました後のボクは、何か憑物が落ちたかの如く、晴れやかな気分で自分を顧みる事が出来る様になっていた。
・・・しかし夢ってのは、よくもまあ、ああも自分に都合の良いストーリーばかり展開出来るもんだよね~。だいたい、シズコちゃんちは母子家庭でも何でもないし、あんなに簡単にドアを開けてくれるはずないっちゅうの・・・。
それに、よくよく考えてみたら、ボクも悪かったんだよな~。突然、あんな通り魔みたいな告白されたら、誰だって引いちゃうよね。
今日、学校に行ったら、シズコちゃんに素直に謝ろう。
ボクには元から、楽しく明るく幸せな日々なんて向いてなかったんだよ・・・。
そう決心したボクのこころは、意外にも爽やかであった。
ボクはボクさ。自分らしく身の丈にあった人生を、無難にやり過ごせれば、それでもう良いよ・・・。
ぐっすん・・・。一瞬でも、シズコちゃんの事を恨んだり憎んだりした自分が恥ずかしいや。
「憎しみは何も生み出さない」・・・とも言うしさ。
ウフフ・・・。ボクって素直な良い子でしょ?
テヘヘ・・・。大失敗の巻~!!・・・みたいな?
だけどさ、例えば今日、学校でシズコちゃんに謝るとするよ・・・。そしたらさ~・・・。
のひ太「あ、あの~、シズコちゃん。昨日は変な事言ってゴメンネ。」
シズコ「えっ、のひ太サン、そんな事無いわ。私こそ、いきなりあんな事言われてビックリしちゃって、何だか、のひ太サンを傷つけちゃったかも?・・・って、後悔してたのよ。」
のひ太「とんでもないよ~!!シズコちゃんは全然悪くないよ!!みんなボクが悪いんだからさ~。」
シズコ「ウフフ・・・のひ太サンって、優しいのね。」
のひ太「や!!・・・やふぁひいだなんてぇ・・・。そ・・・そんな、ボク、照れちゃうよ~!!」
シズコ「優しいわよ~!!(はあと)」
のひ太「やだな~もう!!シズコちゃんったら!!」
シズコ「ウフフ・・・。」
のひ太「テヘヘ・・・。」
シズコ「あの~、もし、のひ太サンが良かったら、おともだちって事で、おつきあいしてくれないかしら?」
のひ太「ええ~!!マジ~!!超嬉しいよ~!!(涙)」
シズコ「もうっ!!のひ太サンったら、ホントに大袈裟なんだから~。(微笑)」
デヘヘ・・・。
デヘヘヘヘ・・・。
ボクは、よだれをたらしながら、児戯めいた妄想に溺れ浸っていた。
ウフフ・・・。「災い転ぢて福となす」って、この事かしら?
だが、この時、ボクはまだ知る由もなかった。
今はただ、地獄の入り口に足を踏み入れただけに過ぎなかったんだって事を・・・。
そして、この先こそが、本当の地獄だったのだ・・・と言う事も。
(つづく)