ああ、シズコちゃん・・・。
そう。あの日から、ボクの頭の中はシズコちゃんの事でいっぱいになってしまった。
来る日も来る日も、学校に居ようが家に居ようが、シズコちゃんの事を考えれば考えるほど、思い出せば思い出すほど、思慕の念は増幅されていくのだ・・・。
そして、それはあたかも、失われた若さを取り戻そうとやっきになり、自分を見失ってしまった、目が見えぬ老人の愚かな妄執の如し・・・。
ああ、胸が苦しくて張り裂けてしまいそうだ!!これが・・・、これが、恋と言うやつなのか・・・。
だけど、本来は内気な性格のこのボク。結局、シズコちゃんとは一度も会話をする事なく、5年生に進級する事となった。
担任爽木とも、これでおさらば。思えば、あいつの一言が、このボクを恋慕の地獄に突き落としたのだから、仕返しもせずに縁が切れるのは残念だが、今のボクには、あんな奴の事など、もはや、どうでも良かった。
春・・・。進級、そしてクラス替えの季節。運命の女神はボクに味方した。何と、5年生になっても、シズコちゃんと同ぢクラスになれたのだ。
更に、あの男。そう、不具多吐露男こと、トロオとも・・・。
その時、ボクに微笑んだのは、運命の女神などではなく、死神であったと言う事を思い知るのは、その年の、暑い夏の日の事だった・・・。
(つづく)